2014年2月27日木曜日

中間社会の不分明化


 最近、またしても青年が自動車で群衆の中に突入する事件が発生した。思うに、こうした事件は現在の日本社会の基本的な構造の抱える問題に変化のない限り、他でも起こりうるだろう。日本社会の基本的な構造の抱える問題とは、1980年代以降のリベラリズムの浸透に伴う、「中間社会」(国家と個人の間にあり諸社会のこと)の紐帯の衰退、ないしは不分明化である(特に「雇用の流動化」の影響が大きいのは言うまでもない)。すなわち、家族をはじめ、学校、会社、地域その他におけるコミュニティ感覚の希薄化である。これは近年、「無縁社会」というNHKの造語を用いつつ問題視されるようになってもいる。

 個人の「自己」が帰属する場を見出し、安定感を得ることが、個人の成長には不可欠であると思うが、自由主義的個人主義一色に塗りつぶされた世界では、個人はそうした場を見出すのがますます難しくなりつつある。それは個人が自己を限定し、社会化する場を見出すことが難しくなっていることでもある。そこでインターネットの仮想現実の世界で自我を肥大化させつつ、国家という権力的共同体に自己を同一化しようとする「ネット右翼」が登場することになる。

 さらに、個人はもはや自己の生きる場を見出し得ないのみならず、自己の生きる指針、倫理もリベラリズムの世界であいまいなものとなっているかも知れない(これは時々学生のレポートなどから感じることである)。そもそも倫理とは、超越者や他者・共同体との人格の関係のうちにしか、十全な仕方で成立しえないように思う。またそうした関係を抜きには、「よき生」の構想や、さらには宗教を考えることはできないであろう。現代の自由主義的個人主義は消極的自由を個人に与えつつも、積極的自由の基盤になるそうした関係を作り上げる「物語」を個人に与ええていないように思う。

 そうした生きる意味の不分明化した「ニヒリズム」、道徳的相対主義の世界では、生産と消費の拡大を追求し続ける自己目的的な産業・消費社会の動向とも相まって、個人の魂のあり方も質料化し、アモラルな、欲望を方向づける導きを失ったものとなるのではないだろうか。そうした魂においては、魂の理性的部分は弱化すると共に欲望的部分が肥大化し、魂の秩序の転倒が生じ、もはや自己がどこに向かうべきか、合理的な方向付けがますます難しくなってゆく(実は哲学や宗教なしにはそうした魂の方向付けはそもそもなしえないのだけれども)。プラトンが説く、魂の御者(理性)の手綱が失われてしまっているのである。

加えて、マックス・ピカートの説くような、現代の「無連関」世界においては、そうした魂は、自己を何か輪郭のはっきりした権力的なものに同一化しようとするか(『我々自身の中のヒトラー』)、無連関な世界の中で、孤独な爆発を起こすかであるように思う。つまり、個人の魂の質料化と先の中間社会の喪失とが相まって、最近の「ネット右翼」のナショナリズムや、群衆の中での突発的行動が生じているように思えてならない。

 翻って問題の解決のためには、もう一度、「人間とは何か」、すなわち人間本性を見つめ直し、人間は個的人格であると同時に共同体的存在であり、かつそうした本性に由来する客観的な倫理の世界を生きるものであることを再確認する必要があるように思う。個人や法人の自由と市場での競争を通じての経済の活性化を説くだけでは、個人の倫理や様々の中間社会の共同体的意義、またそうした中間社会や国家に課せられる倫理を見失うのは間違いない。現在の日本社会に生じている動きは、「官僚制的個人主義」社会としての、自由主義的個人主義社会の安定性をも脅かしつつあるのも、間違いないだろう。

 また、そもそも1980年代以降、アメリカ発のリベラリズムが日本社会に浸透していったのは、単にアメリカの政治的・経済的・文化的「外圧」によるのみならず、日本社会の古い、おそらく大戦前後から連続している、共同体的なもののあり方に対する一般の嫌悪感があったのも確かであろうし、また、マルクス主義に絶望した世代が代替イデオロギーとしての自由主義的個人主義に飛びついた、という事情もあるであろう。いずれにせよ、個人を質料的な「個体」(individuum)ではなく、形相的な「人格」(persona)として正しく捉える中で、共同体の望ましい在り方を再考することが、リベラリズムを超えて「中間社会」の復興のためには必要であろう。

 そのための具体的方策は、誠に難しいだろう。おそらく、現代日本社会の「ほころんだ」部分が模索のための手掛かりを与えてくれそうである。以前、二度ばかり東北の被災地でのボランティア活動に参加したが、「官僚制的個人主義」社会システムのほころんだところでは、かえって人間同士の連帯や、超越者との関係という霊性を見出しやすいのかもしれない。

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